「安楽死」と「尊厳死」日本での現状~臨床看護の視点から~

尊厳死宣言書

看護師・社会福祉士・精神保健福祉士として、20年近く医療福祉現場で患者さんやご家族の「もしも」に寄り添ってきた経験から、
今は行政書士として終活のサポートをしています。
実は稀少なエキスパートです💪

今日は尊厳死宣言書に関連して、「安楽死」と「尊厳死」の日本での現状について、現場経験をふまえてお話しします。

1.日本での安楽死の現状

※「安楽死と尊厳死の違いがわからない…」という方は、先に別記事
▶「安楽死と尊厳死の違いについて」をお読みいただくのがおすすめです。

令和7年8月現在、日本では安楽死を合法化する法律は存在しません

けれど、過去には苦しむ患者を「救いたい」との想いから、安楽死を選んだ医師も存在しました。

結論から言えば、日本での安楽死は違法です。

医師が致死薬を投与したり人工呼吸器を外した場合 → 殺人罪

致死薬を患者に渡し自殺を補助した場合 → 自殺幇助

いずれも刑事裁判になり、有罪判決が出ています。

病棟によって違いはありますが、臨床ではこうした言葉に日常的に出会います。

「殺してほしい…」

「もう生きていたくない…」

「楽にしてくれ…」

これは身体的な痛みだけではありません。

不安・孤独・恐怖といった精神的苦痛

経済的・社会的に自分の役割を失う社会的苦痛

「自分とは何か」と問い続けるスピリチュアルペイン

──こうした複合的苦痛(トータルペイン)と、ターミナル期の患者は戦わなくてはいけません。
実際に命を絶つ手伝いではなく、死にたいほど苦しい気持ちを理解して欲しいという場合も少なくないので言葉の真意には注意が必要です。

現代医療でもどうにもならない苦しみは存在します
だからこそ、安楽死の合法化を望む声もありますが、課題も多く、現実は「違法」

希望があっても、日本では引き受ける医師はいません。
どうしても安楽死を望む場合は、スイスなど世界へ渡るしかないのが現状です。

2.日本での尊厳死の現状

まず、尊厳死とは何か──

延命治療を行わず、自然な最期を迎えること

では「延命治療」とは、具体的にどんな医療を指すのでしょうか?

例を挙げると…

人工呼吸器の装着(自分で呼吸が出来なくなった)

胃ろう・経鼻栄養(口から食べられなくなった)

CV(中心静脈栄養)確保(口から食べられなくなった)

酸素投与(血中の酸素濃度が下がってきた)

蘇生術(心臓マッサージ・昇圧剤)(もうすぐ心臓が止まりそうだが頑張ってもらう、血圧が低すぎる)

尿道カテーテルによる尿量管理(おしっこの量で全身状態や薬の采配を決める)

透析治療(自分で血液が浄化できない状態になった)

などが「延命治療」に含まれます。

「人工呼吸器と胃ろうだけじゃないの?」と思った方、それだけではないんです。

尊厳死の理解が進まない背景には、

人によって知識や理解度に差がある

延命治療の実際の現場の様子は公開されにくい(プライバシー保護の観点からも)

本人の気持ちを外部が知る手段がほとんどない

──といった事情があります。

また、尊厳死を選ぶのかどうかの意思表示者は本人では無いのが現状という場合もあります。
入院時、本人、家族や身元引受人が記入する「ターミナル期の意思表示書」

そこでは、

DNR(蘇生措置を行わない)

ANR(あらゆる手段で救命を試みる)

のいずれかを選ぶよう求められます。
しかし、本人の意思が未確認のまま、代理人が選んでしまっている現実も多く見られます。
本人、高齢で体調が悪いとそれどころじゃ無いんで。

特に地方の病院では、尊厳死宣言書の存在はまだまだ「マイナー」

現場では多様な価値観・倫理観の中で、ケースバイケースで対応せざるを得ないのが実情です。
さらに、訴訟リスクに対する不安から、医療従事者が萎縮してしまうという課題もあります。

3.事前承諾書と尊厳死を支えるスタッフたちの現状

日本では病院や施設で最期を迎える人の方が多いです。

そこで使われるのが、「事前指示書」や「事前承諾書」。

「もしものとき、どうしてほしいか?」
その内容によっては、施設では対応できず病院搬送となる可能性がある──
そうした情報をまとめた書面です。いわば、高齢者施設版の尊厳死宣言書です。

たとえば、「もう無理して食べたくない」と意思表示した方がいたとします。
でも、現場スタッフが「もう少し頑張って食べましょう」と粘ってしまうことも少なくありません。

食事は大事という価値観

食べさせないと「何か言われる」という不安

食べなければ点滴になるプレッシャー

こうして、本人の意思が生きない現場は、実はたくさんあります。

これは、施設の教育体制や職場風土によっても大きく左右されます。
ましてや介護現場は未経験や異業種からの転職組スタッフも多く多様な技術レベル、価値観のるつぼです。

薬が飲めない人への内服をどこまでさせるのか
血管確保が難しくなった人への点滴の継続判断など、
「自然な最期とは何か?」という問いに明確な答えはありません。

たとえ公正証書で尊厳死宣言書を作成していても、
本人の望んだ最期になるとは限らない──
それが現場のリアルです。

4.まとめ

安楽死は日本では認められていない。
 → 実行すれば殺人罪・自殺幇助罪。

尊厳死には明確な法律がない。
 → 合法か違法かは他の法律を根拠に、個別判断。

現場では、多様な価値観と訴訟リスクの板挟みで混乱中。

それでも私は思います。

自分の意思は、表示しないよりはした方がいい

公正証書によるリビングウィルや尊厳死宣言書は、
人生100年時代の大切な備えです。

らいちょう先生も、富山でターミナル期の意思表示を支えるエキスパートになるため、
日々現場と法律の橋渡しに励んでいます。

他にも「現場のリアル」が詰まった尊厳死宣言書に関する記事を掲載しています。
検索ボックス、または「#尊厳死宣言書」でぜひご覧ください。

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